2009年2月5日木曜日

2月5日(木)どうやって首を飛ばすか

・ 今朝の新聞は「パナソニックの大赤字と16000名の人員削減」ばかりの記事で橋下改革の記事はなかった。私も最近はもう慣れてしまって「知事の発言」に驚かなくなってきているのだが、一昨日から昨日の夕刊にかけて「新しい話」が出てきていた。無視するわけにはいかない内容だから少し言及しようと思う。
・ 話は2月3日の節分の日に遡る。毎日新聞は一面と社会面にそれは、それは大きく「府立高校校長アンケート結果」を大々的に報じていた。内容は先般府教委が発表した「超エリート校10校の設立」についての反響だ。
・ 「校長の70%が反対」と出たことについて知事はその日のうちに「どうやって首を飛ばすか」と発言し、わざわざ夕刊にはこの言葉を見出しに使っている新聞もあったのである。「知事の憤懣やるかたなし」と言ったところだろう。その日の「ちちんぷいぷい」というテレビ番組に出演した知事は同じように校長批判を繰り返していた。
・ しかし毎日も毎日だ。このようなアンケートを取っては大きく取扱い「知事に見せて」、わざと「知事から過激な発言を引き出そう」と狙っていると誤解されかねないようなアンケートだ。
・ 大体校長先生にこのような一握りのエリート校の設置について意見を求めても賛成するなどありえないではないか。余りにもこの記者は学校内部の「校長意識」が分かっていない。分かっていてこのようなアンケートを取るならそれは「人が悪い」と言っているのだ。
・ 平成14年、今から7年前に私は府立高津高校に行くよう辞令が出た。その時は丁度赴任前研修を「我孫子の教育センター」で受けていたのだが周辺の校長先生や指導主事は「初の民間人校長として赴任先は何処なんだろう」として「興味津々」だった。
・ 噂は流れており、私が理系だから「工業高校かもしれない」「いや、市内の中間レベルのまあ落ち着いた学校だろう」とか何とか「大阪府初の民間人校長の誕生を迎える学校は一体どこか」がとにかく大きな話題で関心事であった。
・ 私は「まあ何処でも良いが市内の方が良いかな、衛星都市の学校では通勤時間がなーウーン・・」と言うくらいであったが内示当日当時の教育監から「高津高校へ」と言われた時は、言われる私よりも内示する先生のほうが幾分テンションが上がっているように私には見えたのである。
・ 高津高校は府内5学区のトップ校でまさに上町台地の中心部、大阪市内の中心部に位置する名門中の名門校で「自由と創造」を校是とする「制服」などない校則さえ明らかでないような「超有名な伝統校」であった。しかし同時に「凋落の代名詞」でもあったのだ。
・ 実際に私は当時、そして今でも民間人校長としてこのような伝統校への赴任は例が無かった。大体は総合学科の学校とか何らかの特徴ある学校で、伝統ある進学校というのは日本全国「初めてのケース」であった。
・ その昔企業時代には人事部にも関係したことがあったから「高津高校の名前」は存じてはいたが当然深い内容は知らない。ただ住友金属の社員には当時で30名以上が高津高校から京大、阪大、神大の卒業生が入社していたことは住金人事部に確かめた。何かにつけて有名な学校だったのである。
・ 内示を受けて部屋に戻ると周辺の先生方は「感に堪えない」と言った様子で「驚いて」いるのである。「何で民間人校長があの高津やねん?!」と言ったものだったろう。この視線は「ズーッ」とその後も続くことになる。
・ 高津の校長室に掲げてあった歴代の校長の写真から調べて見るとこの学校は「ポッと出」の校長が赴任できるような学校ではないのである。少なくとも実績はそうであった。教育委員会の幹部経験者か普通の高校を2校経験してようやく3校目に赴任できるというくらい「ハードルの高い高校」であったのである。確かに私の前の校長は3校目であったという。
・ そういう学校は府内には「9校しかない」のである。それは前にも書いたが「北野、茨木、大手前、四条畷、高津、生野、天王寺、三国丘、岸和田」の9校である。これに準ずる学校が豊中、池田、千里、清水谷、夕陽丘、八尾、住吉、泉陽くらいのものか。でもこれらは9校から見れば全然「格が違う」のである。
・ 企業人の匂いを撒き散らしながら仕立ての良い濃紺の背広に胸ポケットに白いハンカチをつけて高津のような市内中心部の名門校に行くのを「妬み」に近い感じで見られていたことは肌で感じた。
・ そうなのである。全ての校長先生はマスコミの言う「底辺校」即ち「教育課題校」または府内外れの「山の上にある学校」などには「行きたくない」と感じるのが普通であり、そのように感じるのは人間の自然な感情である。
・ だから校長人事を見て見ると新任の校長の最初の赴任校は「しんどい学校」から始まって徐々に「落ち着いた学校」になって最後に「ご褒美」でもなかろうが「まあ比較的伝統ある2番手校」くらいが普通のパターンなのである。たまにまれにトップ校に行ける事になるのは「宝くじに当たる」様なものなのである。
・ 私は4年間の経験で必ずしもトップ校の校長が優れているとは思わない。立派な考えと良い教育実践をされている校長先生は多い。ところが大学や社会の見る目は些か違うのである。知事の通学した「北野高校の校長とXX高校の校長」とはやはり違ってくるのである。これが現実なのである。
・ 入学してくる生徒のレベルが基本的に違っておりその結果が「大学進学実績の違い」となってそれが校長の物言わぬ勲章に思われるような「実態としての高校レベルの差」は厳然として存在する。
・ 辛い思いをしているこのような校長に「超の付くエリート校に賛成しますか」と聞くことは「ナイフで胸の中をほじくる」ことになりかねない。「進学実績だけが学校の評価基準ではない」「学校の序列化を更に進める」「教員の固定化につながる」「校長間の分断が始まる」とかなんとか反対の理由を言うが表向きの反対意見はそうでも同じ校長としてどうすることもできない「学校間格差とそこの校長間格差」に「辛い思い」を隠して頑張っておられる校長の気持ちを橋下知事は分かってやらねばならない。
・ もっとも分かってもなんにもならないが。それは大阪だけの話ではなくて日本全国共通の話であるからである。「東京都立日比谷高校」は茶髪金髪で不合格にした都立XX高校の校長とは全然違うのである。それが「教育界の現実」なのである。
・ 橋下知事は「どうやって首を飛ばすか」考えるのではなくて「まずエリート校10校以外の校長先生にご迷惑とご足労をおかけすることになろうが、そのような学校があって初めてこのようなエリート校は成り立つものです。心から理解と協力をお願いしたいと思います」とでも言ったら反対は「70%から50%くらい」にはなったかも知れないね。