2010年10月10日日曜日

10月10日(日)遍路行 十日目

後半戦十日目(通算三十一日目)



10月10日(火) 遍路行  デジカメが壊れた中で今治を歩き回る



菊間を出でて、今日は今治、何故か6個所も札所がある。お大師様も意地が悪い。今治偏重ではないかと思ったりもする。鉄鋼業は造船業と極めて関係が深く、住友金属に勤めていた時代、今治の造船会社に何回か出張できたことのある町である。勿論当時はこの町に88箇所のうち6箇所も札所があるなど知る由もなかった。しかしデジカメが壊れたのには参った。


① 余りにも計画が甘すぎだと気付いた。とても処理できる計画でないと星の家の娘さんに言われた。こちらも自信はない。それにトイレの臭いが家全体を覆っており、早く脱出すべきと考え、朝食を断り、4時起床、4時20分旅館を出た。外は真っ暗、でも僕には秘密兵器が。ペンライトと赤の点滅ライトをぶら下げながら歩き始める。夏には不要であったが秋は必要かもと考え、今回求めたものだ。初めての使用である。LEDの照明は良い。とにかく小さく、軽く、明るい。夏、秋通じてこのような早朝歩きは初めてだ。気分は悪くない。


② しばらく歩くと、遠くに工業地帯特有の高い煙突、照明、などが夜空を照らしている。太陽石油の菊間製油所か。こういうのも懐かしい光景だ。歩いて1時間、5時30分過ぎ、向かう方向が明けてくる。空があかね色に染まってくる。美しい。遂に看板「タオルと造船の町・・・今治」の看板が目に入る。今治市だ。面白いではないか、この看板、タオルと造船、何かかけ離れ過ぎているところが面白い。


③ 夜が明けた頃、一台のバイクが僕の側に停まり、おじいさん(?)が降りてくる。僕に「赤マムシドリンク」を飲めというのだ。まだ冷たく先ほどまで冷やしておいたものだろう。仕事の途中か始める前に飲むのか、いずれにしても自分の好きなスタミナドリンクを一本僕に呉れるというのだ。心で涙を流しお礼を言った。おじさんが立ち去った後。ごくごくと一気に飲み干した。旨かった。この赤マムシの味は一生忘れないと思う。叔父さん、有難う。


④ 7時30分、54番「近見山延命寺」を打つ。2時間で10キロを踏破。すごい早さだ。この2時間が今日、自分を助けることになる。写真を撮ろうとしたらなんと液晶部分が故障していて役に立たない。今回のために新たに求めた最新最軽量の機種だが、弱い。何か衝撃が加わったのだろう。困った。どう処置するか。新たな苦を背負い込む。今日は写真が撮れないと分かると元気を無くした。


⑤ 9時30分55番「別宮山南光坊」を打つ。このようなお名前は88ヶ所でただ一つである。それにご本尊が普通と異なり、「南無大通智勝佛」である。良く分からないが遍路は神仏両参りが習慣で南光坊近くの別宮大山祇神社から明治初年の神佛分離令で現在の南光坊になったと物の本にはある。



⑥ さてとにかくデジカメを何とかしなければ、とりあえず、量販家電ショップを訪ね、そこに向かう。時間のロスだが仕方がない。「デオデオ」と言うのが四国では多い。今治デオデオで診断、「これは駄目です。修理です。」と。「エー」と落胆。しかし脚を使えばよい情報もある。6キロほど下に「K-“S電気」があると言う。鹿島のケーズで買ったものだ。これは何とか成るかも知れない。しかし時間は過ぎていく。次第に焦りが出てくる。


⑦ 11時30分56番「金輪山泰山寺」を打つ。12時過ぎ、57番「府頭山栄福寺」を打つ。しかし朝4時に起床してから何も食べていないのでふらふらとなってくる。近くに食べるところはない。しかし何とか泰山寺の納経所でここから最も近い食堂を1軒だけ聞き出し、そこに立ち寄る。しかし火曜日は定休日とあった。時間の無駄かと思ったが、「ええい!ままよ」とドアを開けて入ると叔母さんがおられ、何か作って貰えないかと頼むと、これが良い返事。結論から、肉うどん、小豆と黄な粉のおはぎを2個、豊水梨を1/2個サービスで作ってくれた。親切な人ばかりだ。これでお腹は万全、後を頑張るだけだ。



⑧ 15時山道を分け入り、58番「作礼山仙遊寺」を打つ。立派な大きな札所だ。天智天皇の勅願で創建、作礼山の山号は作礼山という山が本当にあるからである。まさに仙人がいるようなお山の頂上にある。お寺に天然温泉が湧き、宿坊も立派である。多くの遍路のお墓もある。今度来るときは是非ここの宿坊に泊まってみたい。しかし焦りは募る。これから国分寺を打ち、デジカメを直し、宿に入るまでには残った時間が3時間くらいしかない。とにかく国分寺を優先して目指す。


⑨ 16時、59番「金光山国分寺」を打つ。58番から59番は歩きの距離で6.1キロ、そこを僕は1時間で歩いたことになる。運良いことに歩きやすい道ではあったが、通常の1.5倍のスピードで歩いたことになる。競歩みたいな歩きだ。とにかく国分寺を打った。本日予定していたすべて札所は打った。ほっとする間もなく、タクシーを呼んで「K-“S」電気の店まで走らせる。あらかじめ鹿島の「K-“S」に話をしておいたので問題なく新品と交換。常日頃の上得意客の顔がこういうときに利くのだ。待たしておいたタクシーに乗って国分寺山門に戻る。これは僕のこだわりだ。タクシー代は負けては呉れなかったけど運転手さんは僕のこだわりに驚いておられた。時刻は16時30分過ぎ。従ってこの日は撮影した写真が一枚もないのである。参った、参った。

⑩ さあ、宿に向かう。イヤー大変な一日だった。良く歩いた。足も腰もがたがた、限界である。初めての経験である。歩くときに体が左右に振れる。距離は36キロ、しかしあちこち歩き回るのは余計に疲れる。今治の市内をくまなく歩き回ったことになる。チェックイン6時過ぎ。宿は今治で有名な温泉『今治湯の浦ハイツ』。予約からいささか値段は高かったが、その価値はあった。温泉も部屋も素晴らしく、食事は今ひとつでも十分満足できる。生ビール大ジョッキと中ジョッキ、冷酒が1本、くたくたでふらふら、倒れこむように横になる。部屋の電気がついているのは分かっているが、立ち上がって消すことができない。疲労困憊である。明日果たして歩けるであろうか。ただ明日は比較的楽なスケジュールであり、朝はゆっくりとしたい。久しぶりに朝風呂も楽しみたい。この日のことも生涯忘れないだろう、そのような一日となった。