2010年10月1日金曜日

10月1日(金)遍路行後半一日目

 伊予・讃岐二国打ち 一日目(通算二十二日目)


平成18年10月1日(日)  三十九番 延光寺 重ね打ち



朝6時、天王寺発の高速バスは高知県窪川町の道の駅に到着。本当に時刻通りである。ここで車内の照明が付けられ禁止されていたカーテンを開けることが許された。外は本降りから霧雨に近くなってきており、一安心である。やる気が出てくる。視界には見慣れた光景が広がっていた。四国の光景である。


① 高速バスも悪くない。ただもう少し席が前後に広ければ更に快適だと思うが、このバスでも28人乗りにしかならず、バス会社にとっては限界なのであろう。運転手は2名配置され約1万円前後のチケットでは確かにぎりぎりなのかも知れない。中東のオイルの値上がりが更に追い討ちをかけているのかも知れない。


② 前回に比べ海の色が全く異なる。灰色に近い。車道に面する家々は照明もついておらず「何で暗いのだろう?」と思う。朝の6時過ぎであれば大体どの家も朝餉の支度で小さな灯くらいはあるものだがここにはどこにも見えない。少子化で恐らく老夫婦だけの生活かもしれない。豆電球一つあれば事足りるのかも知れない。田舎である。とにかく過疎に見える。日本全国地方は過疎化が進んでいるのである。都会を離れて初めて実感する。


③ 計画では四万十中村市で下車し、それからは土佐くろしお鉄道で平田駅までと考えていたが運転手さんに「平田駅の近くのバス停は何処ですか?」と念の為に聞くと意外にも「バス停三原分岐が平田駅だ。」という。何と名前が違うだけだった。聞いて良かったと思った。200円追加で一つ先のバス停、三原分岐で降ろして貰った。


④ 8時5分延光寺に着く。ちょうど1ヶ月前に立った場所に立つ。あの時はT君という若い素晴らしい青年がいた。彼は「通し打ち」を追え、東京に戻って大学生活最後を楽しんでいるのだろうか。すべてが懐かしい。タクシーを降りる頃には雨は上がっており、運の強さを感じる。幸いである。身支度を整え、諸準備を進める。早く出発しなければと思うと気が急くのである。これからの安全を祈願。お杖を返却し、納経帳にご朱印を頂く。前回頂いたものの空白の部分に判を押して頂く。これを「重ね打ち」と言うことを教わった。



⑤ 朝食には持参のりんごを皮付きでほおばる。9時延光寺出発。気分が高揚し、やる気が出てきた。ちょうどこの頃団体のお遍路さんがお寺に向かうのとすれ違う。老婦人の集団であるが、じろじろと観察されながらお互い挨拶を交わす。この近くには民宿が多いが遍路シーズンを迎えて活況を呈しているのかも知れない。8月にはこのような集団にはお目にかかれなかったが、10月ともなれば団体のお遍路が登場するのである。この後誰とも会話などなく、ただ一路愛媛県最初の札所四十番「観自在寺」に向かって背筋は伸びる。今まさに始まったのだ。このように好きな時間が取れることを何よりも幸せに思わなければならないのだろう。誰か彼、好き勝手に出来ることではない。このように思えるようになったのである。


⑥ 順調に脚は進む。ただ空腹を感じる。昨夜も高速バスの中であり、しっかりとした夕食を食べていなかったからである。歩くコースは松尾峠越えと一本松越えとあるが一本松コースを選択した。最初の日ゆえ、山道を敬遠したのだ。しかしこの道は56号線沿いで起伏が多く、雨上がりの蒸し暑さと慣れない新しい靴、それに空腹で結構消耗のペースが速い。要注意と考えながら歩くペースを落として歩く。前半戦で履きつぶしたスニーカーを新しくしたのだが果たして調子はどうなのか、いささかの心配もある。同じ靴を探したが、すでに同じものはもうお店にはなかったのである。歩き遍路にとって靴は極めて重要である。足にあったものというか足と一体のものでなければ大変なことになるからである。靴に失敗すれば歩き遍路は悲惨なことになる。


⑦ 11時35分道路沿いにあるレストラン「樹里」にて昼食。地図にはこの先食堂は遠く一軒あるのみだからここを選択した。前回の経験から学習したのである。「親子丼」とした。味はそこそこであったが見た目が美しくない。卵丼、親子丼などは上に被さる卵の黄色の色がポイントであり、ここに難点があった。言ってみれば田舎の丼という感じ。しかし贅沢は言うまい。食べられただけで幸せであると思うようにしなければならない。700円。


⑧ このコースもトンネルが多かった。宿毛市貝塚から北上し、与市明トンネル、宿毛トンネル、そしてレストラン「樹里」があり、篠川橋を渡れば左折し、「愛南町(旧一本松町)」に入る。一本松町の町並みを抜ける頃が疲労のピークとなる。しかし飲み物をそれほど体が欲しがらないのである。8月とは本当に異なる。大きな違いだ。気温は22度、汗はじっと感じるが流れるほどとは言えない。蓮乗寺トンネル、城辺トンネルを過ぎれば観自在寺はもうすぐである。時刻は3時30分、4時までには打てると一安心、初日としては26キロ近く歩き、結構頑張った。

⑨ 市の中心部に入る。薬局でエアーサロンパスを購入。16時、40番「平城山観自在寺」を打つ。ご詠歌も何か印象的であった。16時30分門前「山代屋旅館」に投宿。初日にしては一杯一杯の計画であったが、結果としてうまくいった。良しとすべし。山代屋、何か由緒あるようなこの大きな旅館に客は僕一人、設備も古く、継ぎ足し、継ぎ足しの工事で使いにくいが、宿は経営者の人柄が重要である。良い旅館であった。夕食のタイの煮付け、イカの刺身、絶品であった。ただ、だだっ広い食堂で一人食べるのも何かさびしいものだ。ビールは一本だけとし、これも8月とは異なる点である。
⑩ しかし今日は旅日記をまとめる余裕はなかった。NHKの「巧妙が辻」で秀吉の最後を見たら、眠くなり就寝。
   秀吉:つゆとおちつゆときえにし我がみかな、なにわのこともゆめのまたゆめ
   智山:ほうぼうにおもいをのせる我がみかな、こうづのこともゆめのまたゆめ

自作の金剛杖の使いかってがとても良い。加えてお杖のカバーが良い。手になじみ、しっかりと握れる。後半戦が何か楽しみになってきた。