2010年10月9日土曜日

10月9日(土)遍路行 後半戦九日目

後半戦九日目(通算三十日目)



10月9日(月) 遍路行   遂に瀬戸内海に



 道後温泉で少し時間的贅沢をした。今日は松山を抜けて今治に入る。少し気が抜けて中だるみを感じる。有名な松山市内の石手寺を打ったから、幾分空虚な感じにもなっているのだろう。僕の場合は小さな躁と鬱が交互にやってくる。一昨日、昨日と躁が続いたから今日は鬱だな。自分で良く分かる。市内を除けば今日の距離は30キロ、ただ歩くだけで打つ札所はない。遂に瀬戸内海が目に入ってくる日である。

① 松山ユースホステルは悪くはなかった。清潔だし、値段は安いし、言うことはないがどうも僕の波長と少し違う。何が違うのだろうと色々考えた。その結果、分かったことはとにかくごちゃごちゃしている感じなのである。建物全体とマスターがごちゃごちゃしているのだなと感じたのである。敢えて差別化の為に普通と違うようにパーフォーマンスしてホテルを運営しているのである。


② ホテルの入り口には「伊予ユースホステル共和国」と大看板があり、チェックインは入国管理と言い、前払いを請求され、普通の風呂はなく、「岩風呂」と言ってお湯などなく950円も別に請求され、ご飯は白米、玄米、麦の3種類が用意され、飲み物は現金と引き換えで貰えて、浴衣は100円で交換され、夜の10時からミーティングと称して宿泊者の健康管理講座があり、階段の踊り場には漫画や書物が山のように積まれ、どうもホテルのあちこちが普通のホテルではないのである。


③ 責任者は自らを『大統領』と呼び、作務衣など着ている。大統領が作務衣を着るか。サービス産業の責任者とは思えない立ち振る舞いで、悪いわけではないがどうも感じが違うのである。僕はあまり好きでないのだが、客は結構多い。一つには安いからだろうと思うのと、何より道後温泉まで歩いて6分の距離が魅力なんだと思う。こういう様は結構見る。でもやはり普通ではない。奥さんなども何か口数が少なくて、明るくなく、食堂の従業員もぴりぴりして、ただ一人マスターだけが赤ら顔で太っており、相撲取りみたいな感じである。こういうところを見る僕の見方は、やはり厳しいのだと思うが、多くの普通の人はこれが面白くて良いマスターと見えるファンも多いのである。ここが世間の難しいところだ。


④ 朝飯も7時からと余裕がない。歩き遍路に7時の朝食では出発は7時30分になってしまう。ホステルというんだからもう少し柔軟性があって良いと思った。僕はお金だけ払って飯抜きで6時に出発した。今日の予定を考えれば少しでも早いほうが良い。支払いは5300円、前日チェックイン時に支払っている。道後温泉の側が遍路道、昔の遍路も温泉を楽しんだことが、このことだけで良く分かる。遍路道が温泉とかけ離れていたら悲しいではないか。


⑤ 松山の繁華街を抜け、北の方面に向かった。寺町があり、様々な宗派のお寺がある。曹洞宗も良く見る。我が家の宗派だ。浄土宗も多い。「来迎寺」という。有名なロシア人墓地があるお寺で子規の祖父のお墓もある。8時30分52番「龍雲山太山寺」、9時30分53番「須賀山円明寺」を打つ。今日の札打ちはこれで終了した。後は今治に向かって歩くだけ。天気は快晴、汗ばむくらい暑い。道後温泉は良く効く。脚の調子はとても良い。10時頃ローソンで軽食。本格的に歩き始める。和気幼稚園などでは運動会、先にも後ろにも誰もいない。寂しい孤独の一人歩きだ。世の中は休み、歩き遍路も道後で連泊とし、休息日らしいが、僕はそのように出来ない。先に進むだけだ。


⑥ 看板があった。堀江港からフェリーが出ている。呉・松山フェリーと言い、懐かしい呉港阿賀とつながっているのだ。呉は我がふるさと、先に映画で見た「男たちの大和」には阿賀が出てくる。色々と思い出しながら一人で歩く。北条に入る。縦に長い町だ。まだ松山市内で、高浜虚子の碑や早坂暁の故郷、「花遍路の町・北条」などの看板に釣られ「花遍路のお菓子」を銘菓司店で買う。お接待を頂いた。お茶とお菓子3個を別に女将は入れてくれた。1000円の買い物でそこまでして頂くと申し訳ない。続いて昼食。お稲荷さん2個とうどん。お稲荷さんの旨かったこと、天王寺駅に売っているのと比べようもない安さで、一つで大阪の3個分の大きさである。国道沿いのレストランで、広場にて食したのである。

⑦ 道はまだ北上、地図では釣島水道、伊予灘を過ぎている。瀬戸内海と言っているが僕はここ菊間からを瀬戸内と言いたい。道はここから真東に向かい、僕の感覚では大阪天王寺に向いている感じだ。今日の宿は菊間町の「月の家旅館」ここも古い旅館で、16時30分遅い入り。道後温泉から30キロ以上、海の側を歩きに歩き、内海に面した道は少し土佐の外海と違う。道路は海に被るようにあり、下は海である。自動車道路の次に列車の線があり、場所によっては高速や専用道路がその次に来るのが瀬戸内海に面している特徴か。昔からの味のある道の構成であり、海の匂いをまず人間が嗅ぎながら歩くことができるのが瀬戸内海の良さである。


⑧ 道の駅沿いには瓦業の看板が目立つ。そう、ここ菊間は菊間瓦で有名なところであり、2ヶ所立ち止まって製作の過程を教えてもらい、特に鬼瓦の素晴らしさに感動したりした。16時30分旅館「星の家旅館」に到着。菊間駅のそばにある。名前は月の家と格好良いが部屋は今ひとつであった。換気が悪くて部屋は臭い、特に男子トイレの臭いが廊下を通じて部屋に入ってくる。僕は脳の天辺が裂けそうになった。僕は病的に臭いにはとても敏感だけに、この臭いには我慢が出来ない感じだが、それに慣れた人には感じないのだろう。長女が仕切っているのだが、この人が辛い。声は大きく、胸もスイカみたいなものをぶら下げて、前歯の下が3個抜けており、話す度にこの人は何故か、腕まくりをするのだ。頭のてっぺんは少し髪が少なく、どうも僕にはどういう人か良く分からない。それに計3人の客のうち、一人の男は狐みたいな顔をして魚をちゅうちゅう食べているのだ。もう僕は張り裂けそうになってきた。初めて経験する旅館である。


⑨ 食事中の話を参考にし、僕は早く脱出をと考えて翌朝早く出発することにした。気持ちの悪い旅館であったが、それも僕だけの感覚だけなのかも知れない。しかし僕はとにかく臭いには敏感であり、女性でも髪の臭いの強い人、(洗っていない人)には敬遠する。体臭は良い、しかし髪の臭いは嫌だ。神経質すぎるがもうこの年になっては仕方がない。