2010年10月13日水曜日

10月13日(水)遍路行後半戦 十三日目


伊予・讃岐二国打ち十三日目(通算三十四日目)



10月13日(金) 遍路行   伊予土居町に向かって



 「菩提の道場」と言われる伊予の国、愛媛県も大詰め、あと三角寺を残すのみにになった。今日は打つべき札所も無く、途中下車として今は四国中央市と呼ぶ伊予土居泊まり、旅館の名を「蔦廼家」という。さもそれらしい名前である。今日は13日の金曜日、道中の無事を祈るばかりである。案外ゲンを担ぐ僕であるが、いささか気が弱くなってきているのか、このようなことを気にするのだ。

① 湯に癒された体は幾分、癒され過ぎの感じであったが贅沢は言えない。一言で言えば銭湯、公衆浴場につき、朝風呂はなかった。幾分残念であったが鄙びた温泉宿を味わうことができたのだ。朝食6時45分、支払い8350円。7時10分出発。


② 朝は冷えると予報されていたが、歩いて10分もすればもう汗を感じる。折角持参したロングタオルを寒さしのぎに首に巻いて格好をつけた積りであるが、もう限界と考え1時間後には外してしまった。道は11号沿いに並ぶ旧国道,すなわち遍路道である。JR予讃線と松山自動車道が平行して走る。何も特段変わったところはない。今日の宿は西条市と観音寺市との中間点伊予土居にした。たまたま道路地図帳から選んだだけの話である。


③ しかし歩いていてもどうも気分が乗って来ない。考えて見れば何時も何もないただ歩くだけの日は調子がよくない。気分はブルーである。でも良いこともあった。8時55分、お接待を受ける。80歳近いおばあさんが僕を後ろから呼び、小走りに近寄り、なんと80円を頂いた。50円玉と10円硬貨が3枚。

「イヤー、おばあさんお気持ちだけで良いのです。申し訳ないです。」
「少ないけどお昼の足しにして。」
「それでは頂きます。有難う御座いました。ご恩は一生忘れません。」とかの会話。
 
これからが重要で特定の宗教団体の名前を出して:
「私は○○○○じゃけん、おおっぴらには出来ません。今日は祭りじゃがそれも表立っては行けん。」
「おばあさん、○○○○に入って、良かったですか?」
しばらく沈黙して
『人間じゃけ、辛いこともあるわ。』

④ 9時30分新居浜市に入る。住友の原点、若い頃、20代、30代に本当にここには出張で良く来たものだ。友人もいる。若かりし頃を思い出した。齢59歳まで実に様々なことがあった。徐々に孤独感と寂寥感が覆ってくる。丁度その頃国道11号線の高松市の看板が102キロと出てきた。もうすぐ両親の眠る高松だ。この11号線をそのまま行けば、2日間くらいで着く距離だ。11号線沿いの高台、琴平電鉄岡本駅近くのみかん畑に両親の眠るお墓はある。


⑤ 10時55分、土橋商店街のアーケードの一角で腰を落とし、地図を確認していたら、又、今度は幾分、お若いおばあさんが200円呉れるというのだ。足してお昼ご飯を食べろと言う。先ほどと言い、今回と言い、もう何を言って良いか分からない気持ちになる。ただ有り難いではこの気持ちは表現できない。でも言葉が見つからない。


⑥ 12時前、昼食にしなければならない。特段お腹が空いて食べたいというわけでもないが、食べる時間は脚の休息になるのだ。そうしなければ歩き続けることになる。ご飯が続くので今日はパン食とした。遍路道から11号線に入り、船木地区という部落のデイリーヤマザキで休息、陽は良く当たっているが、入り口横にベンチがあり、そこでいざ食べようとしたら「ドスーン」の音とともに、軽自動車にトラックが追突した。このコンビニに入ろうと停まった車にぶつけたらしい。軽もトラックも僕が食べようとする真ん前に入ってきた。大した事故ではないが、救急車をお店の人が呼んでいる。僕は立ち上がって出発の支度をして、その場を立ち去った。


⑦ 又遍路道に入り、パンをかじりながら歩く。しかし一向に元気が出ない。時に男は女以上に落ち込むことがある。生理はないが言ってみれば今日は男の生理日であるか。このようにして男は心の奥のものを搾り出して体の内部をきれいにしていき、活力を再生産しなければならない。昔は生理も酷くなく又その分生理期間は長かったが、加齢と共に短く、きつくなるのが熟年男の生理の特徴なのかも知れない。振幅が大きく周期は短くなるのだろう。


⑧ 四国中央市に入る。旧土居町。この辺から秋祭りの騒ぎとなってくる。太鼓台と言って相当力を入れている町おこしのお祭りを目にした。太鼓台の豪華さに驚くばかりだった。部落単位にあるという。今日から3日間お祭りは続くという。今日は「かきくらべ」といって別に書道ではなくて「担ぎ比べ」のことらしい。写真をとってくれたおじさんが夜には是非見に来いと誘ってくれる。



⑨ 15時過ぎ宿に到着、「蔦廼家」という。明治の香がしそうな格好良い名前だろう。伊予土居駅前の割烹旅館で結婚式場もある。部屋は和洋混合でベッドであった。快適だし、女将さんが若い。お風呂も一番、洗濯の世話も焼いてくれる。良い旅館で良かった。是非祭り見物をと勧められたので浴衣の上に羽織を背負って出かけたのである。お祭りは迫力があり、思い出に残るものであった。伊予最後の旅館がここ土居町で良かったと思った。13日金曜日、何とか無事に過ぎつつあるどころかこの旅館に当たったのは幸運であった。